二〇二三年 一月 二十日 大寒

不織原蚕筒下衣

布 : 不織布[ 丹後 ]、屑繭[ 丹後 ]

身長 160 cm [女性]

身丈 約 90 cm
身幅  約 68 cm
腰囲 約 118 cm
紐丈 約 75 cm

¥ 31,000 + tax

夏がたぎる日光にうなされながら刈った草を砧で叩きほぐしたのに蒟蒻糊と和紙を水に溶いた繊維を絡ませて紙になるかどうかを試していた時があった。到底紙ほどの繊細なものにはならなくても、草の繊維が自由にからみあったうねりの模様は綺麗だなあと感じ入りながら、そういう布との出会いを心の端においていた。だから、絹の不織布に接したときの得もいわれぬ感覚を今でも鮮明に覚えている。紙かと思って触れずにいたのだけれど、どうしても気になってしまい手にとってみると繊維一本一本が自在にうごき、点在する屑のほくろが和紙にみられる楮皮のようでもあったし、年月の地層で象牙色に変色したのだろうなと思わせる斑は意図してできるものではない。「これは何ですか?」と尋ねると、「不織布です」とお答えになっても、さっぱりわからない。僕が想像したものといえばコンビニで手軽に購入できる不織布マスク。樹脂で接着されているとわかる肌触りと匂いですぐに思いだされるけれど、それと同等とは思えなかったからだが、素材が絹100%で圧着を水流絡合法という手段で成されたものであると聞いて納得した。動物性の粘膜で色の経年変化もあって、織物に成せない不均一な糸や不良な繭の寄せ集めで繊維一本一本が自由に動けばいい、織らなければいいという発想が面白い。僕がよく多用しているニードルパンチ法とも類似している。不織布の普及は大正期であり、大部分は衣の裏方的存在だが、使い方によっては化けそうと思い至って制作したのが今回の衣になります。

i a i / 居相 - Earth clothes - Based in mountain village / Japan.「 一日一衣 」

屑繭布は汚れや穴あき、出殻、浮きしわ、薄皮などの副産物又、繭の糸口を見出す為にしごきとった緒糸(きびそ)繰り終えた繭にとどまった繭繊維(びす)などの短繊維を紡いで絹紬糸になる。要するに、生糸をとるのに適さない不良な繭。その絹紬糸には個性光る節があり、木綿のように素朴な質感を生む。屑繭布は製糸・紡績工程でどうしても出る副産物を再利用した糸で織られている。陽にさすと微かに光沢を感じとれ生地がとても軽いわりに透け感はない。素白色のいたるところに節や黒い斑点が見られるのは蚕があますことなく布に昇華されているのでしょう。素材のあまりものをどう生かそうかという背景に不織布の行程がかさなります。

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布に存在感があるので民族的思考で簡素な衣を想像した。不織布一重で負荷をかけてもまったく変化のない強度だけれど、よりコシを出すために接着芯で二重にして、裏地に同質の屑繭を。筒状の衣に足をとおして片方にポケットが配置されていない方側に折り込めば着用できる。折り込んだ方側の裾元から三十㎝程のスリットがあるのと、前身頃に大きな襞があるので動作がし易く、前掛け代わりに生活の染みを育んでいくのが楽しそうな一衣。洗濯する毎によって揉み和紙のようにいくつもの皺ができてくる表情がたまりません。身体が機能する時に布がくぷっ、こぽっ、とふくらんだりしぼんだりする蕾のような動きも面白い。凡そ三十年前の布なので前記で紹介したように色斑や日焼があります。そういう古物の経年を愛する方へご縁がありましたら、幸いです。

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