二〇二二年 十二月 四日 草行
さむさが天から地からふきこんでくる。
慌ててすきま風をうめるようにして、
薪ストーブの煙突を繕い直して、薪割りをしたり
木端を竹の籠に移しかえたりしていた。
木の裂目からは、いたるところから木々の
甘やかで心をほぐしてくれる香りと、
赤身の芯の部分にみる美しいそれぞれの内部に、いちいち富まされていた。
山羊のこはむはただ家族が近くに居るだけで
安心して反芻するけなげさでこっちにジッと視線を向けていた。
そろそろ柚子の葉も口がとどかないところを食 (は) みたいだろうから、
何か台を持っていってやらないと。
長女のしぐさが、木屑と葉をあつめて、少し咳こむ
僕の喉をいたわって薬草ジュースをつくり、
甘味に木端でみたてたチーズケーキを差し出してくれる。
その横で次女のはゆは、自分の時間軸を丁寧に生きているから、
マイペースに木と雑草でお家をこしらえていた。
いたるところから遊びはうまれ、そのひとときに個性の創造がある。
初心 ( うぶ ) な表現を父親として感じさせてもらって、
かなわんなあ~と思う詩のような言葉や、
ぬくもりの所作に心身をほほえませられっぱなしです。
たまに、この子達に地下から湧いてくるように怒ったり、
「これはこうやで」とつい口をだしている自分と
今眼の前の娘らをかさねていた。
僕もいまだ成長途上だし、何なら娘たちにおよんでもない。
たくさん教えてもらうには、この子達との時間をたくさん持つこと。
そのことを胸に秘めて斧をふるっていた。
+
薪ストーブの火で温めたぬるま湯をいつもの白い水筒にうつしかえて、
養父の大屋町の古民家から譲っていただいた古い椅子に
座り市子さんのラジオを聴いていた。
声の周波数が耳心地に安心だから、
折坂悠太さんとの月替もろとも水曜日の
お二人の言葉を心底たのしんでいる。
そこで梅林さんという方の選曲が流れてきたのだけれど
そのどれもが良くて、絹布で作った筆入れから
すぐに鉛筆をとりだして木端に書きだした。
それをノートに記しうつすのをすっかり忘れたのを今思いだして、
漆喰壁を背に積み上げた薪のどこかに
その字はひそんでいるから、風呂を焚くときにしっかり見ないとな。
青い山河のように色白い光の讃美歌だった。
+
次女のはゆがここのところ体調を崩していて、
僕にも少しその菌がはいった。
こういう時にさっと自分の筆圧と言葉で
したためた手当ノートを見返して、
愛する娘らの症状を草木でやわらげてあげられたらと
未来の自分に今のはがゆさを字に残しておく。
+
自然のなかで個の姿形をくっきりと見せてくれる冷たい季節は
湯気のようにやわらかい白い息が内からでてくる。
森羅万象の空気境界面がそれぞれにはっきりして、
人間ひとりひとりの存在をほかの存在と紛れさせることなしに
見たり考えたりするには最もいい季節だと思っている。
二〇二三年のことをふくよかにしていくために、今の自身の心の真ん中を見つめて放たれた想いに、水や栄養を与えすぎないように周りにもおすそ分けしていけたらと思います。
居相